東京大学 数理科学研究科 数理科学専攻 2022年度 専門科目 A 第1問
Author
Miyake
Description
\(x\) を変数とする次数 \(2\) 以下の実係数多項式全体のなす実線型空間を \(V\) とする。\(a,b\) を実数とし、線型写像 \(S,T: V \rightarrow V\) を
\[
S(f(x)) = \frac{d}{dx} ((ax+2)f(x)), \ T(f(x))=(bx+3) \frac{d}{dx} f(x) \ \ \ (f(x) \in V)
\]
と定める。
(1) \(S\) を対角化する \(V\) の基底が存在するための \(a\) に対する必要十分条件を求めよ。
(2) \(S,T\) 同時に対角化する \(V\) の基底が存在するための \(a,b\) に対する必要十分条件を求めよ。
Kai
(1)
\(V\) は3次元であり、 \(1, x, x^2\) はその基底である。
\[
\begin{aligned}
\begin{pmatrix} S(1) & S(x) & S(x^2) \end{pmatrix}
&= \begin{pmatrix} a & 2ax+2 & 3ax^2+4x \end{pmatrix}
\\
&= \begin{pmatrix} 1 & x & x^2 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} a & 2 & 0 \\ 0 & 2a & 4 \\ 0 & 0 & 3a
\end{pmatrix}
\end{aligned}
\]
なので、 \(V\) の基底 \(1,x,x^2\) に関する \(S\) の表現行列は
\[
\begin{aligned}
\tilde{S}
&= \begin{pmatrix} a & 2 & 0 \\ 0 & 2a & 4 \\ 0 & 0 & 3a
\end{pmatrix}
\end{aligned}
\]
である。
よって、 \(S\) の固有値を \(s\) とすると、
\[
\begin{aligned}
0
&= \det \begin{pmatrix}
a-s & 2 & 0 \\ 0 & 2a-s & 4 \\ 0 & 0 & 3a-s \end{pmatrix}
\\
&= (a-s)(2a-s)(3a-s)
\end{aligned}
\]
である。
(i)
\(a \ne 0\) のときは、
\(S\) には相異なる3つの固有値 \(a,2a,3a\) があるので、
\(S\) は対角化可能である。
(ii)
\(a=0\) のときは、
\(S\) の固有値は \(0\) のみである。
\(S\) の固有値 \(0\) に属する固有空間を求めるため
\[
\begin{aligned}
\begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 2 & 0 & 0 \\ 0 & 4 & 0 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} u \\ v \\ w \end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix}
\end{aligned}
\]
とおくと、 \(u=v=0\) を得るので、固有空間は1次元であることがわかる。
よって、この場合は \(S\) は対角化可能でない。
(i), (ii) より、求める必要十分条件は \(a \ne 0\) である。
(2)
(1) と同様に考えると、
\(V\) の基底 \(1,x,x^2\) に関する \(T\) の表現行列は
\[
\begin{aligned}
\tilde{T}
&= \begin{pmatrix} 0 & 3 & 0 \\ 0 & b & 6 \\ 0 & 0 & 2b
\end{pmatrix}
\end{aligned}
\]
であることがわかり、
\(T\) の固有値を \(t\) として
\[
\begin{aligned}
0
&= \det \begin{pmatrix}
-t & 3 & 0 \\ 0 & b-t & 6 \\ 0 & 0 & 2b-t \end{pmatrix}
\\
&= -t(b-t)(2b-t)
\end{aligned}
\]
であることがわかり、
\(T\) が対角化可能であるための必要十分条件は \(b \ne 0\)
であることがわかる。
\(S,T\) が同時対角化可能であるためには、
\(S,T\) のそれぞれが対角化可能である必要があり、
\(a \ne 0\) かつ \(b \ne 0\) でなければならない。
さらに、
\[
\begin{aligned}
\tilde{S} \tilde{T}
&= \begin{pmatrix}
0 & 6a & 12 \\ 0 & 2ab & 18a+4b \\ 0 & 0 & 6ab
\end{pmatrix}
, \\
\tilde{T} \tilde{S}
&= \begin{pmatrix}
0 & 3a+2b & 12 \\ 0 & 2ab & 12a+8b \\ 0 & 0 & 6ab
\end{pmatrix}
\end{aligned}
\]
なので、
\(\tilde{S} \tilde{T} = \tilde{T} \tilde{S}\) となるのは
\(3a=2b\) のときである。
以上より、求める必要十分条件は、 \(a \ne 0\) かつ \(3a=2b\) である。