東京大学 数理科学研究科 数理科学専攻 2021年度 専門科目 B 第16問
Author
Miyake
Description
質量が \(m\) のおもりを \(N\) 個用意し、図のように長さが \(l\) の \(N\) 本のひもで順につないで天井からぶら下げる。
ひもはたわんだり伸び縮みしたりせず、ひもの重さは無視でき、おもりの運動は鉛直軸を含む一定の平面内で起こるものとする。
また、時刻を \(t\)、重力加速度を \(g\) で表すことにする。
図のように、運動が行われる平面の \(xy\) 座標を、天井とひもとの固定点を原点とし、水平方向が \(x\)、鉛直下向きを \(y\) となるように定める。
上から数えて \(i\) 番目のおもりの水平方向の位置座標を \(x_i\) とする。
(1) どの \(|x_i|\) も十分小さいという仮定のもとで、この系のLagrangian \(L\)、および \(L\) から得られる Euler-Lagrange 方程式を求めよ。
ただし、こうして得られる Euler-Lagrange 方程式は、線型の微分方程式になるものとする。
(2) (1)で求めた線型微分方程式の解で、定数 \(\omega\) を用いて
\[
x_i = A_i \sin{\omega t} \ \ \ \ \ (i = 1, 2, \cdots, N)
\]
と表される解に興味があるとする。
このとき、最高次の係数が \(1\) のある整数係数 \(N\) 次多項式 \(P_N (X)\) が存在し、上の形の解が存在するための必要十分条件が、\(P_N(\omega^2 \frac{l}{g})=0\) と表されることを示せ。
(3) 多項式列 \(\{P_N(X) \mid N = 1, 2, 3, \cdots\}\) を特徴付ける漸化式を一つ求めよ。
Kai
(1)
位置座標 \(x\) の時間微分 \(dx/dt, d^2x/dt^2\) を
それぞれ \(\dot{x}, \ddot{x}\) のように表す。
どの \(|x_i|\) も十分に小さく、
得られる Euler-Lagrange 方程式が線型の微分方程式とのことなので、
運動エネルギーとポテンシャルエネルギーは \(\{x_i\}\)
に関して2次まで求めればよい。
上から数えて \(i\) 番目のおもりのy座標を \(y_i\) とすると、
次が成り立つ:
\[
\begin{aligned}
x_1^2 + y_1^2 &= l^2
,
\\
(x_n - x_{n-1})^2 + (y_n - y_{n-1})^2 &= l^2
\ \ \ \ (n = 2, 3, \cdots, N)
\end{aligned}
\]
よって、
\[
\begin{aligned}
y_1 &\simeq l - \frac{x_1^2}{2l}
,
\\
y_n &\simeq nl - \frac{1}{2l}
\left( x_1^2 + \sum_{j=1}^{n-1} (x_j - x_{j+1})^2 \right)
\ \ \ \ (n = 2, 3, \cdots, N)
\end{aligned}
\]
なので、この系のポテンシャルエネルギーは(基準点を適当に選んで)
\[
\begin{aligned}
U
&= - mg \sum_{i=1}^N y_i
\\
&\simeq - mg \left[ \frac{1}{2}N(N+1) l
- \frac{1}{2l}
\left( N x_1^2 + \sum_{j=1}^{N-1} (N-j) (x_j - x_{j+1})^2 \right)
\right]
\end{aligned}
\]
であり、
\[
\begin{aligned}
\frac{\partial U}{\partial x_1}
&\simeq \frac{mg}{l} \left[ (2N-1) x_1 - (N-1) x_2 \right]
,
\\
\frac{\partial U}{\partial x_n}
&\simeq \frac{mg}{l} \left[
-(N-n+1) x_{n-1} + (2N-2n+1) x_n - (N-n) x_{n+1} \right]
& \ \ \ \ (n = 2, 3, \cdots, N-1)
,
\\
\frac{\partial U}{\partial x_N}
&\simeq \frac{mg}{l} \left[ - x_{N-1} + x_N \right]
\end{aligned}
\]
である。
また、 \(\dot{x}_i\) にくらべて \(\dot{y}_i\) は十分小さいので、
この系の運動エネルギーは
\[
\begin{aligned}
T
&= \frac{1}{2} m \sum_{i=1}^N \left( \dot{x}_i^2 + \dot{y}_i^2 \right)
\\
&\simeq \frac{1}{2} m \sum_{i=1}^N \dot{x}_i^2
\end{aligned}
\]
であり、
\[
\begin{aligned}
\frac{\partial T}{\partial \dot{x}_n}
&\simeq m \dot{x}_n
& \ \ (n = 1, 2, \cdots, N)
\end{aligned}
\]
である。
よって、Langrangian \(L\) は、
\[
\begin{aligned}
L
&= T - U
\\
&\simeq \frac{1}{2} m \sum_{i=1}^N \dot{x}_i^2
+ mg \left[ \frac{1}{2}N(N+1) l - \frac{1}{2l}
\left( N x_1^2 + \sum_{j=1}^{N-1} (N-j) (x_j - x_{j+1})^2 \right)
\right]
\end{aligned}
\]
であり、Euler-Lagrange 方程式は、
\[
\begin{aligned}
\ddot{x}_1
&= - \frac{g}{l} \left[ (2N-1) x_1 - (N-1) x_2 \right]
,
\\
\ddot{x}_n
&= - \frac{g}{l} \left[
-(N-n+1) x_{n-1} + (2N-2n+1) x_n - (N-n) x_{n+1} \right]
& \ \ \ \ (n = 2, 3, \cdots, N-1)
,
\\
\ddot{x}_N
&= - \frac{g}{l} \left[ - x_{N-1} + x_N \right]
\end{aligned}
\]
である。
(2)
(1) で得た運動方程式に
\(x_i = A_i \sin \omega t \ \ (i = 1, 2, \cdots N)\)
を代入して整理すると、次のようになる:
\[
\begin{align}
\left( \omega^2 \frac{l}{g} I_N - B_N \right)
\begin{pmatrix} A_1 \\ A_2 \\ \vdots \\ A_N \end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}
\tag{a} \label{a}
\end{align}
\]
ただし、 \(I_N\) は \(N\) 次の単位行列で、
\(B_N\) は \(i,j\) 成分が次のように与えられる \(N\) 次正方行列である:
\[
\begin{aligned}
(B_N)_{i,j}
&= \begin{cases}
2N-2i+1, &(i-j=0) \\
-N+i, &(i-j=-1)\\
-N+i-1, &(i-j=1)\\
0, &(\text{otherwise})
\end{cases}
\end{aligned}
\]
(\(\ref{a}\)) が自明な解 \(A_1 = A_2 = \cdots = A_N = 0\) 以外の解
\(A_1, A_2, \cdots, A_N\) をもつための必要十分条件は
\[
\begin{aligned}
\det \left( \omega^2 \frac{l}{g} I_N - B_N \right) = 0
\end{aligned}
\]
であるが、これの左辺は \(\omega^2 l/g\) に関して
最高次の係数が \(1\) の整数係数の \(N\) 次の多項式である。
よって、
\[
\begin{aligned}
P_N(X) = \det \left( X I_N - B_N \right)
\end{aligned}
\]
として、題意を満たすことがわかる。
(3)
\(N = 1, 2, \cdots\) について、
\[
\begin{aligned}
P_{N+2} (X)
&= \det \begin{pmatrix}
X-(2N+3) & N+1 & 0 & 0 & 0 & 0 & \cdots \\
N+1 & X-(2N+1) & N & 0 & 0 & 0 & \cdots \\
0 & N & X-(2N-1) & N-1 & 0 & 0 & \cdots \\
0 & 0 & N-1 & X-(2N-3) & N-2 & 0 & \cdots \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
\end{pmatrix}
\\
&=
(X-(2N+3)) \det \begin{pmatrix}
X-(2N+1) & N & 0 & 0 & 0 & \cdots \\
N & X-(2N-1) & N-1 & 0 & 0 & \cdots \\
0 & N-1 & X-(2N-3) & N-2 & 0 & \cdots \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
\end{pmatrix}
\\
& \ \ \ \ - (N+1)
\det \begin{pmatrix}
N+1 & 0 & 0 & 0 & 0 & \cdots \\
N & X-(2N-1) & N-1 & 0 & 0 & \cdots \\
0 & N-1 & X-(2N-3) & N-2 & 0 & \cdots \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
\end{pmatrix}
\\
&=
(X-(2N+3)) \det \begin{pmatrix}
X-(2N+1) & N & 0 & 0 & 0 & \cdots \\
N & X-(2N-1) & N-1 & 0 & 0 & \cdots \\
0 & N-1 & X-(2N-3) & N-2 & 0 & \cdots \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
\end{pmatrix}
\\
& \ \ \ \ - (N+1)^2
\det \begin{pmatrix}
X-(2N-1) & N-1 & 0 & 0 & \cdots \\
N-1 & X-(2N-3) & N-2 & 0 & \cdots \\
\cdots & \cdots & \cdots & \cdots & \cdots \\
\end{pmatrix}
\\
&= (X-(2N+3)) P_{N+1}(X) - (N+1)^2 P_N(X)
\end{aligned}
\]
が成り立つ。