東京大学 工学系研究科 電気系工学専攻 2022年度 問題3 情報工学I
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I
情報理論に関する以下の問に答えよ.無記憶情報源 \(X = \{0,1\}\) における \(i\) 番⽬ (ただし \(i = 1,2,3,\cdots\)) の信号を \(X_i\) とし,\(X_i = 0\) となる確率を \(p,X_i = 1\) となる確率を \(1 - p\) とする.近似値として \(\log_23 = 1.6 ,\log_25 = 2.3 ,\log_27 = 2.8\) を⽤いてよい.
(1) \(p = 0.75\) のときのエントロピー \(H(X)\) を求めよ.
(2) \(p = 0.75\) のとき, \(X\) の連続した \(2\) つの信号をひとまとめにした \(\{00,01,10,11\}\) の \(4\) 値を効率よく符号化したい.符号化の例を示し,そのときの平均符号長を求めよ.
\(X\) を⼊⼒とする無記憶通信路 \(C\) を考える.その出⼒を \(Y = \{0,1\}\), \(i\) 番⽬の出⼒信号を \(Y_i\) したとき,\(80\)% の確率で \(Y_i = X_i\) となるが,\(20\)% の確率で \(X_i\) にかかわらず \(Y_i = 1\) となる.
(3) \(p = 0.75\) のときのエントロピー \(H(Y)\) を求めよ.また,相互情報量 \(I(X;Y)\) を求めよ.
(4) \(I(X;Y)\) を最⼤化する \(p\) は \(0.5\) より⼤きいか⼩さいか答えよ.根拠も簡潔に述べよ.
II
信号処理に関する以下の問に答えよ.時間 \(t\) および⾓周波数 \(\omega\) は実数,\(j\) は虚数単位であり,複素数 \(a\) の複素共役を \(a^*\) と表す.また,複素関数 \(x(t)\) のフーリエ変換 \(X(\omega)\) とそのフーリエ逆変換を次式で定義する.
(1) \(\mathcal{F}^{-1}[X^*(\omega)] = x^*(-t)\) が成り立つことを示せ.
(2) \(x(t)\) が実関数のとき,\(X^*(\omega) = X(-\omega)\) が成り立つことを示せ.
アナログフィルタ Aのインパルス応答を実関数 \(f(t)\) で表す.\(A\) の応答が因果律を満たすことから,\(t < 0\) において \(f(t) = 0\) である.また,\(F(\omega) = \mathcal{F}[f(t)]\) の実部および虚部をそれぞれ \(F_1(\omega),F_2(\omega)\) とおくと,\(F(\omega) = F_1(\omega) + jF_2(\omega)\) である.
(3) \(f_1(t) = \mathcal{F}^{-1}[F_1(\omega)]\) を,\(f(t)\) を⽤いて表せ.
(4) \(f_2(t) = \mathcal{F}^{-1}[F_2(\omega)]\) を,\(f(t)\) を⽤いて表せ.
(5) \(F_1(\omega)\) が既知で \(F_2(\omega)\) が未知のとき,フーリエ変換とフーリエ逆変換を⽤いることで \(F_1(\omega)\) から \(F_2(\omega)\) を求めることができる.その⼿続きを \(3\) ⾏程度で説明せよ.必要に応じて図や式を⽤いても良い.
ある実信号 \(s_1(t)\) の⾓周波数帯域が \(|\omega| \le \omega_B\) である,すなわち,\(|\omega| > \omega_B\) のとき \(\mathcal{F}[s_1(t)] = S_1(\omega) = 0\) とする.この信号により⾓周波数 \(\omega_C (\gg) \omega_B\) の搬送波を変調する状況を考える.
(6) 実信号 \(d(t) = s_1(t)\cos\omega_Ct\) のフーリエ変換 \(D(\omega) = \mathcal{F}[d(t)]\) を \(S_1(\omega)\) を⽤いて表せ.また,\(D(\omega)\) の⾓周波数帯域が \(\omega_C - \omega_B \le |\omega| \le \omega_C + \omega_B\) となることを示せ.
(7) \(s_1(t)\) が既知であれば,適切な実信号 \(s_2(t)\) を準備し,実信号 \(u(t) = s_1(t)\cos\omega_Ct + s_2(t)\sin\omega_Ct\) を⽣成することで,\(U(\omega) = \mathcal{F}[u(t)]\) の⾓周波数帯域を \(\omega_C \le |\omega| \le \omega_C + \omega_B\) に制限することができる.\(s_1(t)\) から \(s_2(t)\) を求める⼿続きを \(3\) ⾏程度で説明せよ.必要に応じて図や式を⽤いても良い.
Kai
I
(1)
(2)
下図は一例。
平均符号長は
(3)
(4)
\(I(X;Y) = H(Y) - H(Y|X) = \mathcal{H}(0.8p) - p\mathcal{H}(0.2)\)
これが最大となるのは \(\frac{d}{dp}I(X;Y) = 0\) となるときである。
よって最大となる \(p\) は \(0.5\) より小さい。ただし、\(H\) の筆記体はエントロピー関数。
II
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
\(t < 0\) において、\(f(t) = 0\) となることから、\(t > 0\) において (3) より
\(\mathcal{F}^{-1}[F_1(\omega)] = f_1(t) = f(t)/2 , t = 0\) のとき \(\mathcal{F}^{-1}[F_1(\omega)] = f_1(t) = f(t)\) となる。よって、
$$
f(t) = \left {
\begin{aligned}
2\mathcal{F}^{-1}[F_1(\omega)],&t > 0 \
\mathcal{F}^{-1}[F_1(\omega)],&t = 0 \
0,&t < 0 \
\end{aligned}
\right.
$$
これの逆フーリエ変換 \(F(\omega)\) から \(F_2(\omega) = \frac{F(\omega) - F^*(\omega)}{2j}\) または \(F_2(\omega) = \frac{F(\omega) - F_1(\omega)}{j}\) を計算すればよい。
(6)
ただし、\(*\) は畳み込み積分である。
帯域は、\(|\omega - \omega_C| \le \omega_B\) または \(|\omega + \omega_C| \le \omega_B\) に広がり、簡単化すると、
\(-\omega_B \le \omega - \omega_C \le \omega_B\) または \(-\omega_B \le \omega + \omega_C \le \omega_B\)
\(\omega_C \gg \omega_B\) より \(0 \le \omega_C - \omega_B \le \omega \le \omega_C + \omega_B\) または \(-(\omega_C + \omega_B) \le \omega \le -(\omega_C - \omega_B) \le 0\)
よって \(\omega_C - \omega_B \le |\omega| \le \omega_C + \omega_B\)
#### (7)
ここで \(S_2(\omega) = \text{jsgn}(\omega)S_1(\omega)\) とすると、
となる。
よって、\(\mathcal{F}^{-1}[\text{jsgn}(\omega)] = -\frac{1}{\pi t}\) であるから、\(s_2 = \mathcal{F}^{-1}[S_2(\omega)] = -s_1(t) * \frac{1}{\pi t}\) とすればよい。