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東京大学 工学系研究科 物理工学専攻 2020年度 物理学 第3問

Author

Miyake

Description

固体表面における原子の吸着現象の簡単なモデルとして、原子が吸着できる場所(吸着サイト)が \(N_a\) 個並んだ吸着格子と単原子理想気体が接した系を考える(図 1 を参照)。 なお、この系はボルツマン統計に従うものとする。 各吸着サイトは互いに独立で、それぞれ原子が吸着していないか、1つだけ吸着しているかのいずれかの状態をとるものとし、それぞれの状態のエネルギーを \(0, -\varepsilon\) とする (\(\varepsilon > 0\))。 各原子の質量を \(m\) とし、原子の内部自由度は考えない。 この系全体は、温度 \(T\)、化学ポテンシャル \(\mu\) の熱平衡状態にあるものとする。 ボルツマン定数を \(k_B\)、逆温度を \(\beta=1/(k_BT)\)、プランク定数を \(2 \pi\) で割ったものを \(h\) とする。

[1] まず、単原子理想気体のみを考える。体積 \(V\) 中の単原子 \(N\) 個からなる理想気体の分配関数は

\[ Z^{(g)}(V, \beta, N) = \frac{V^N}{N!} \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2 \beta} \right)^{3N/2} \tag{1} \]

で与えられることを示せ。

[2] 式 (1) を用いて、大分配関数 \(Z^{(g)}_G(V, \beta, N) = \sum_{N=0}^\infty Z^{(g)}(V, \beta, N) e^{\beta \mu N}\) を求めよ。

[3] 理想気体の圧力 \(P\) は、\(Z^{(g)}_G\) を用いて \(P(\beta,\mu)=\frac{1}{\beta} \frac{\partial}{\partial V} \log Z^{(g)}_G(V, \beta, N)\) と与えられる。これに問 [2] の結果を用いることで、\(P(\beta,\mu)\) の表式を求めよ。

[4] 次に、この単原子理想気体が吸着格子に接している状況を考える。1つの吸着サイトに着目し、それがとりうる状態に関する大分配関数 \(\xi_G^{(a)}\) を求めよ。

[5] 吸着格子全体の大分配関数は \(Z^{(a)}_G = (\xi_G^{(a)})^{N_a}\) で与えられる。これを用いて、吸着している原子の密度 \(n_a\) (吸着原子の総数を \(N_a\) で割ったもの)を求めよ。

[6] 問 [3] と [5] の結果を用いて、吸着原子密度 \(n_a\) を圧力 \(P\) と温度 \(T\) の関数として表せ。

[7] 問 [6] で得られた \(n_a\) を、温度 \(T\) 一定のもとで圧力 \(P\) の関数として図示せよ。また、圧力 \(P\) 一定のもとで温度 \(T\) の関数としても図示せよ。

Kai

[1]

まず、1粒子について考えると、空間積分は体積 \(V\) となる。 また、運動量に関する積分は、1成分について、次のように計算できる:

\[ \begin{aligned} \int_{-\infty}^\infty e^{- \beta \frac{p^2}{2m}} dp = \sqrt{\frac{2 \pi m}{\beta}} \end{aligned} \]

よって、全体の分配関数は、

\[ \begin{aligned} Z^{(g)}(V, \beta, N) &= \frac{1}{N!} \frac{V^N}{(2 \pi \hbar)^{3N}} \left( \frac{2 \pi m}{\beta} \right)^{3N/2} \\ &= \frac{V^N}{N!} \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2 \beta} \right)^{3N/2} \end{aligned} \]

となる。

[2]

\[ \begin{aligned} Z_G^{(g)}(V, \beta, \mu) &= \sum_{N=0}^\infty Z^{(g)}(V, \beta, N) e^{\beta \mu N} \\ &= \sum_{N=0}^\infty \frac{V^N}{N!} \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2 \beta} \right)^{3N/2} e^{\beta \mu N} \\ &= \sum_{N=0}^\infty \frac{1}{N!} \left[ V \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2 \beta} \right)^{3/2} e^{\beta \mu} \right]^N \\ &= \exp \left[ V \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2 \beta} \right)^{3/2} e^{\beta \mu} \right] \end{aligned} \]

[3]

\[ \begin{aligned} P(\beta, \mu) &= \frac{1}{\beta} \frac{\partial}{\partial V} \log Z_G^{(g)}(V, \beta, \mu) \\ &= \frac{1}{\beta} \frac{\partial}{\partial V} \left[ V \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2 \beta} \right)^{3/2} e^{\beta \mu} \right] \\ &= \frac{1}{\beta} \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2 \beta} \right)^{3/2} e^{\beta \mu} \\ &= \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2} \right)^{3/2} \frac{e^{\beta \mu}}{\beta^{5/2}} \end{aligned} \]

[4]

\[ \begin{aligned} \xi_G^{(a)} (\beta, \mu) &= e^{-\beta \cdot 0} \cdot e^{\beta \mu \cdot 0} + e^{-\beta \cdot (-\varepsilon)} \cdot e^{\beta \mu \cdot 1} \\ &= 1 + e^{\beta (\mu + \varepsilon)} \end{aligned} \]

[5]

吸着格子全体の大分配関数は、

\[ \begin{aligned} \Xi_G^{(a)} (\beta, \mu, N_a) &= \left( \xi_G^{(a)} (\beta, \mu) \right)^{N_a} \\ &= \left( 1 + e^{\beta (\mu + \varepsilon)} \right)^{N_a} \end{aligned} \]

であり、グランドポテンシャルは、

\[ \begin{aligned} \Omega (\beta, \mu, N_a) &= - \frac{1}{\beta} \log \Xi_G^{(a)} (\beta, \mu, N_a) \\ &= - \frac{N_a}{\beta} \log \left( 1 + e^{\beta (\mu + \varepsilon)} \right) \end{aligned} \]

であり、よって、

\[ \begin{aligned} N_a n_a &= - \frac{\partial \Omega (\beta, \mu, N_a)}{\partial \mu} \\ &= \frac{N_a}{\beta} \frac{e^{\beta (\mu + \varepsilon)} \cdot \beta} {1 + e^{\beta (\mu + \varepsilon)} } \\ &= N_a \frac{1}{1 + e^{- \beta (\mu + \varepsilon)} } \\ \therefore \ \ \ \ n_a &= \frac{1}{1 + e^{- \beta (\mu + \varepsilon)} } \end{aligned} \]

である。

[6]

[3] より、

\[ \begin{aligned} e^{- \beta \mu} = \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2} \right)^{3/2} \frac{1}{\beta^{5/2} P} \end{aligned} \]

であるから、これを [5] に代入して、

\[ \begin{aligned} n_a &= \frac{1}{1 + \left( \frac{m}{2 \pi \hbar^2} \right)^{3/2} \frac{e^{- \beta \varepsilon}}{\beta^{5/2} P} } \end{aligned} \]

を得る。

[7]