東京大学 情報理工学研究科 数理情報学 2024年度 第3問
Author
Kurosu9991
Description
実数全体の集合を \(\mathbb{R}\) 、複素数全体の集合を \(\mathbb{C}\) で表す。
虚数単位を \(\rm{i}\) 、自然対数の底を \(\rm{e}\) とおく。
周期 \(2\pi\) の関数 \(g:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{C}\) に対し、ノルム \(\|g\|\) を
\[
\|g\|=\sup_{\theta\in[0,2\pi]}|g(\theta)|
\]
と定める。正の整数 \(n\) に対し、
\[
\mathcal{T}_n=\{ t:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{C}|ある複素係数n次多項式Pによりt(\theta)=P(\rm{e}^{\rm{i}\theta})と表される \}
\]
を定める。
関数 \(f:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{C}\) を周期 \(2\pi\) の連続関数とし、各正の整数 \(n\) に対して
\[
\|f-t_n\|\leq\frac{c}{n^3}
\]
を満たす \(t_n\in\mathcal{T}_n\) が存在するとする。
ただし、 \(c>0\) は \(n\) によらない定数である。
以下の設問に答えよ。
(1) 各正の整数 \(n\) に対して、
\[
\|t_{n+1}-t_n\|\leq\frac{2c}{n^3}
\]
が成り立つことを示せ。
(2) 関数 \(t\in\mathcal{T}_n\) の導関数を \(t'\) と書く。
関数列 \(\{t'_n\}\) が、ある周期 \(2\pi\) の連続関数 \(s:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{C}\) に \([0,2\pi]\) 上で一様収束することを示せ。
ただし、以下の2つの事実を証明せずに用いてよい。
\(\quad\bullet\) \([0,2\pi]\)上の複素数値連続関数全体の集合を \(\rm{C}[0,2\pi]\) で表す。
このとき、ノルム空間 \((\rm{C}[0,2\pi],\|\cdot\|)\) は完備である。
\(\quad\bullet\) 各正の整数 \(n\) と任意の \(t\in\mathcal{T}_n\) に対して
\[
\|t'\|\leq n\|t\|
\]
が成り立つ。
(3) \(f\) が \(\mathbb{R}\) 上微分可能であることを示せ。
Kai
(1)
\[
\begin{aligned}
\|t_{n+1}-t_n\| & = \|(f-t_n)-(f-t_{n+1})\| \\
& \leq \|f-t_n\|+\|f-t_{n+1}\| \\
& \leq \frac{c}{n^3}+\frac{c}{(n+1)^3} \\
& \leq \frac{2c}{n^3}
\end{aligned}
\]
(2)
\[
t_n(\theta)=P_n(\rm{e}^{\rm{i}\theta}) \Longrightarrow t_n'(\theta)=P_n'(\rm{e}^{\rm{i}\theta})\rm{i}\rm{e}^{\rm{i}\theta} \Longrightarrow t_n'(\theta)\in\mathcal{T}_n
\]
よって、 \(2\leq n<m\) に対して
\[
\begin{aligned}
\|t_m'-t_n'\| & = \|\sum_{k=n}^{m-1}(t_{k+1}'-t_k')\| \\
& \leq \sum_{k=n}^{m-1}\|t_{k+1}'-t_k'\| \\
& \leq \sum_{k=n}^{m-1}(k+1)\|t_{k+1}-t_k\| \\
& \leq 2c\sum_{k=n}^{m-1}\frac{k+1}{k^3} \\
& \leq 2c\sum_{k=n}^{m-1}\frac{k+1}{k(k^2-1)} \\
& = 2c\sum_{k=n}^{m-1}\frac{1}{k(k-1)} \\
& = 2c(\frac{1}{n-1}-\frac{1}{m-1}) \\
& \leq \frac{2c}{n-1} \rightarrow 0 \quad (n\rightarrow\infty)
\end{aligned}
\]
となる。
ゆえに、 \(\{t'_n\}\subseteq\rm{C}[0,2\pi]\) はコーシー列であり、ノルムの定義と完備性より
\[
\exist s\in\rm{C}[0,2\pi], \quad t_n'\rightrightarrows s
\]
が成立する。
(3)
\[
\|f-t_n\|\leq\frac{c}{n^3} \Longrightarrow t_n\rightarrow f
\]
また、 \(t_n'\rightrightarrows s\) であるため、
\[
f'=(\lim_{n\rightarrow\infty}t_n)'=\lim_{n\rightarrow\infty}(t_n)'=s
\]
となる。つまり、 \(f\) が \(\mathbb{R}\) 上微分可能である。