Skip to content

東京大学 情報理工学研究科 数理情報学 2023年度 第3問

Author

hari64boli64

Description

複素数全体の集合を \(\mathbb{C}\) で表し、虚数単位を \(i\) と書く。実数 \(r > 1\) に対し、\(D_r\) を複素数平面上の円板領域 \(D_r = \{z \in \mathbb{C} \mid |z| < r\}\) とする。\(D_r\) 上の正則関数 \(f: D_r \rightarrow \mathbb{C}\) に対し、一様ノルム \(\lVert f \rVert\)\(\lVert f \rVert = \sup_{z \in D_r} |f(z)|\) で定め、\(I(f)\)\(I_N(f)\) をそれぞれ

\[ I(f) = \int_0^{2\pi} f(e^{i\theta}) \text{d}\theta, \quad \quad I_N(f) = \frac{2\pi}{N} \sum_{k=1}^N f(e^{2\pi i k /N}) \]

と定める。ここで、\(N\) は正の整数とする。以下の設問に答えよ。

(1) 実数 \(R > 0\) に対し、\(\Gamma(R) \subset \mathbb{C}\) を、正(反時計回り)に向き付けられた、中心 \(0\)、半径 \(R\) の円周とする。このとき、\(D_r\) 上の正則関数 \(f: D_r \rightarrow \mathbb{C}\) に対して

\[ I(f) = \oint_{\Gamma(1)} \frac{-i}{z} f(z) \text{d}z \]

が成り立つことを示せ。

(2) \(D_r\) 上の正則関数 \(f: D_r \rightarrow \mathbb{C}\) に対し、

\[ g_N[f](z) = \frac{-i z^{N-1}}{z^N-1} f(z) \]

とおく。\(D_r\) 上の \(g_N[f]\) の極を全て求め、それぞれの極における \(g_N(f)\) の留数を求めよ。

(3) \(D_r\) 上の正則関数 \(f: D_r \rightarrow \mathbb{C}\)\(\lVert f \rVert < \infty\) を満たすとする。このとき、

\[ \begin{align} |I(f) - I_N(f)| \le \frac{2 \pi \lVert f \rVert}{r^N-1} \tag{*} \label{*} \end{align} \]

が成り立つことを示せ。

(4) 式 (\(\ref{*}\)) の右辺の定数 \(2 \pi\) が最良であること、すなわち、

\[ \limsup_{N \rightarrow \infty} \left ( r^N \sup_f \frac{|I(f) - I_N(f)|}{\lVert f \rVert} \right) = 2 \pi \]

が成り立つことを示せ。ここで、\(\sup_{f}\) は、\(\lVert f \rVert < \infty\) であるような \(D_r\) 上の正則関数 \(f: D_r \rightarrow \mathbb{C}\) 全体にわたる上限を表す。

Kai

(1)

\(e^{i\theta}=z\) とおくと、\(\frac{\text{d}z}{\text{d}\theta}=ie^{i\theta}=iz\) であるので、

\[ \begin{aligned} I(f) & =\int_0^{2\pi} f(e^{i\theta}) \text{d}{\theta} \\ & =\int_{\Gamma(1)} f(z) \frac{1}{iz} \text{d}{z} \\ & =\oint_{\Gamma(1)} \frac{-i}{z}f(z) \text{d}{z} \end{aligned} \]

(2)

極は、\(z^N-1=0\)より、\(z=\zeta_N^k \; (\forall k \in [1,N])\) となる。ただし、\(\zeta_N=e^{\frac{2\pi i}{N}}\) である。

よって、留数はロピタルの定理を用いると、

\[ \begin{aligned} \underset{z = \zeta_N^k}{\mathrm{Res}} g_N[f](z) & = \lim_{z \to \zeta_N^k} (z-\zeta_N^k)\frac{-iz^{N-1}}{z^N-1}f(z) \\ & = \lim_{z \to \zeta_N^k} \frac{-iz^{N-1}}{Nz^{N-1}}f(z) \\ & = \frac{-i}{N}f(\zeta_N^k) \end{aligned} \]

となる。

(3)

(2) の結果と留数定理より、

\[ \begin{aligned} \oint_{\Gamma(r')}g_N[f](z) \text{d}{z} & = \oint_{\Gamma(r')}\frac{-iz^{N-1}}{z^N-1}f(z)\text{d}{z} \\ & = 2\pi i \sum_{k=1}^{N} \underset{z = \zeta_N^k}{\mathrm{Res}} g_N[f](z) \\ & = \frac{2\pi}{N} \sum_{k=1}^{N} f(\zeta_N^k) \end{aligned} \]

となる。ただし、\(1<r'<r\) とする。

なお、ここで \(r'\)\(r\) としなかったのは、\(f(z)\)\(D_r=\{ z\in\mathbb{C} \; | \; |z| < r \}\) でのみ定義されている関数であり、 \(\Gamma(r)\) で未定義であるからである。

これを用いて、与式を評価すると、

\[ \begin{aligned} |{I(f)-I_N(f)}| & =\left |\oint_{\Gamma(1)} \frac{-i}{z}f(z) \text{d}{z} - \frac{2\pi}{N} \sum_{k=1}^{N} f(\zeta_N^k) \right| \\ & =\left | \oint_{\Gamma(r')} \frac{-i}{z}f(z) \text{d}{z} - \oint_{\Gamma(r')} g_N[f](z) \text{d}{z} \right | \\ & =\left |\oint_{\Gamma(r')} \left (\frac{-i}{z} - \frac{-iz^{N-1}}{z^N-1} \right)f(z) \text{d}{z} \right | \\ & \leq \lVert f \rVert \oint_{\Gamma(r')} \left |\frac{-i}{z} - \frac{-iz^{N-1}}{z^N-1}\right| \text{d}{z} \\ & = \lVert f \rVert \oint_{\Gamma(r')} \left | \frac{1}{z(z^N-1)} \right | \text{d}{z} \\ & \leq \lVert f \rVert \frac{2\pi r'}{r'({r'}^N-1)} \\ & = \frac{2\pi \lVert f \rVert}{({r'}^N-1)} \end{aligned} \]

となる。

これが、任意の \(1<r'<r\) に対して成立するので、\(r' \nearrow r\) の極限をとると、

\[ \begin{aligned} | I(f)-I_N(f) | \leq \frac{2\pi \lVert f \rVert}{r^{N}-1} \end{aligned} \]

となる。

(4)

まず、与式の上界が \(2\pi\) であることは、(3) より明らか。

与式を下から評価して、それが \(2\pi\) に収束することを示す。 ここで、\(f(z)=z^N\) とすると、

\[ \begin{aligned} I(f) & =\int_0^{2\pi} e^{iN\theta} \text{d}{\theta} = \frac{1}{iN} \left[e^{iN\theta} \right]_0^{2\pi} = 0\\ I_N(f) & =\frac{2\pi}{N} \sum_{k=1}^N e^{2\pi i k} = 2\pi \end{aligned} \]

となる。

よって、

\[ \begin{aligned} \limsup_{N \to \infty} \left(r^N \sup_f \frac{|I(f)-I_N(f)|}{\lVert f \rVert} \right) \geq |0-2\pi| = 2\pi \end{aligned} \]

となる。

以上より、答えは \(2\pi\) である。