京都大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 2022年度 I-3 (AB)
Author
Miyake
Description
I-3A (力学)
慣性系 \(S\) に対して一定角速度 \(\vec{\omega}\) で回転する系 \(S'\) ′ を考える.
回転系 \(S'\) で見た時間微分は \(\frac{d'}{dt}\) で表すことにする.
回転系 \(S'\) で静止しているベクトル \(\vec{A}\) の慣性系における時間変化は \(\frac{d\vec{A}}{dt} = \vec{\omega}\times \vec{A}\) であり,
回転系から見た時間変化 \(\frac{d'\vec{A}}{dt}\) もゼロでない場合には \(\frac{d\vec{A}}{dt} = \frac{d'\vec{A}}{dt} + \vec{\omega}\times \vec{A}\) となる.
これは一般のベクトルに対して成立し,位置ベクトル \(\vec{r}\) に関しても,
\[
\frac{d\vec{r}}{dt} = \frac{d'\vec{r}}{dt} + \vec{\omega}\times \vec{r} \tag{A} \label{A}
\]
である.
(1) 式 (\(\ref{A}\)) を慣性系でさらに時間微分して,慣性系での加速度 \(\frac{d^2 \vec{r}}{dt^2}\) と,
一定角速度 \(\vec{\omega}\) で回転する回転系 \(S'\) から見た時の加速度 \(\frac{d'^2 \vec{r}}{dt^2}\),速度 \(\frac{d' \vec{r}}{dt}\) の関係式を表せ.
どの項がコリオリの力に相当し,どの項が遠心力に相当するか書け.
(2) 質量 \(m\), 電荷 \(q\) を持つ荷電粒子が,中心力 \(\vec{F}(\vec{r})\) の作用を受けて運動している.
\[
m \frac{d^2 \vec{r}}{dt^2} = \vec{F}(\vec{r}) \tag{B} \label{B}
\]
この系に,一様な弱い磁場(磁束密度がどこでも \(\vec{B}\) )を加えた時の運動を
考える.磁場方向の単位ベクトルを \(\vec{k}\) として,力の中心のまわりに \(\vec{\omega} = \omega \vec{k}\)
で回転する回転系から見た運動方程式を書け.
(3) 回転系から見た速度と磁場による力と,コリオリの力とが打ち消し合うため
には,\(\vec{\omega}\) はどうであれば良いか.\(m\), \(q\), \(\vec{B}\) で表せ.
I-3B (熱力学)
シュテファン・ボルツマンの法則を,熱力学的考察から求めたい.
(1) 気体の内部エネルギー \(U(S, V)\)(\(S\) はエントロピー,\(V\) は体積)の全微分 \(dU\)
を,温度 \(T\) と圧力 \(p\) も用いて表せ.また,気体の自由エネルギー \(F = U − TS\)
に関して,\(F(T, V)\) として,全微分 \(dF\) を表せ.
(2) 気体の温度 \(T\) と体積 \(V\) の関数としての内部エネルギー \(U(T, V )\) の全微分
\(dU\) を考えることで,\(\big(\frac{\partial U}{\partial V} \big)_T\) を,温度 \(T\) と圧力 \(p\) を用いて表せ.
(3) 光子気体の圧力 \(p\) は,エネルギー密度 \(\tilde{u}\) すなわち単位体積当たりの内部エネルギー \(\frac{U}{V}\) の \(\frac{1}{3}\) に等しく,\(p = \frac{1}{3} \frac{U}{V} = \frac{1}{3} \tilde{u}\) である.
このことから,熱放射場のエネルギー密度 \(\tilde{u}\) が温度 \(T\) の何乗に比例するか求めよ.導出過程を簡潔に示すこと.
Kai
I-3A (力学)
(1)
\[
\begin{aligned}
\frac{d^2 \vec{r}}{dt^2}
&= \frac{d}{dt} \frac{d \vec{r}}{dt}
\\
&= \frac{d'}{dt} \frac{d \vec{r}}{dt} + \vec{\omega} \times \frac{d \vec{r}}{dt}
\\
&= \frac{d'}{dt} \left( \frac{d' \vec{r}}{dt} + \vec{\omega} \times \vec{r} \right)
+ \vec{\omega} \times \left( \frac{d' \vec{r}}{dt} + \vec{\omega} \times \vec{r} \right)
\\
&= \frac{d'^2 \vec{r}}{dt^2}
+ 2 \vec{\omega} \times \frac{d' \vec{r}}{dt}
+ \vec{\omega} \times \left( \vec{\omega} \times \vec{r} \right)
\end{aligned}
\]
最後の表式の第2項がコリオリの力に相当し、第3項が遠心力に相当する。
(2)
\(B = |\vec{B}|\) とする。
慣性系 \(S\) での運動方程式は
\[
\begin{aligned}
m \frac{d^2 \vec{r}}{dt^2}
= \vec{F} \left( \vec{r} \right) + q \frac{d \vec{r}}{dt} \times \vec{B}
\end{aligned}
\]
なので、 (1) より、回転系 \(S'\) での運動方程式は次のようになる:
\[
\begin{aligned}
m \left( \frac{d'^2 \vec{r}}{dt^2}
+ 2 \omega \vec{k} \times \frac{d' \vec{r}}{dt}
+ \omega^2 \vec{k} \times \left( \vec{k} \times \vec{r} \right)
\right)
= \vec{F} \left( \vec{r} \right) + qB \left(
\frac{d' \vec{r}}{dt} + \omega \vec{k} \times \vec{r} \right) \times \vec{k}
\\
\therefore \ \
m \frac{d^2 \vec{r}}{dt^2}
= \vec{F} \left( \vec{r} \right)
+ (qB+2m \omega) \frac{d' \vec{r}}{dt} \times \vec{k}
- (qB \omega + m \omega^2 ) \vec{k} \times \left( \vec{k} \times \vec{r} \right)
\end{aligned}
\]
(3)
求める条件は、
\[
\begin{aligned}
\omega &= - \frac{qB}{2m}
\\
\therefore \ \
\vec{\omega} &= - \frac{q}{2m} \vec{B}
\end{aligned}
\]
である。
I-3B (熱力学)
(1)
\[
\begin{aligned}
dU &= TdS - pdV
\\
dF &= d(U-TS)
\\
&= -SdT - pdV
\end{aligned}
\]
(2)
\[
\begin{aligned}
\left( \frac{\partial U}{\partial V} \right)_T
&= T \left( \frac{\partial S}{\partial V} \right)_T - p
\\
&= -T \frac{\partial^2 F}{\partial V \partial T} - p
\\
&= -T \frac{\partial^2 F}{\partial T \partial V} - p
\\
&= T \left( \frac{\partial p}{\partial T} \right)_V - p
\end{aligned}
\]
(3)
(2) で得た式に
\[
\begin{aligned}
U(T,V) = V \tilde{u}(T)
, \ \
p(T,V) = \frac{1}{3} \tilde{u}(T)
\end{aligned}
\]
を代入すると、
\[
\begin{aligned}
\tilde{u}(T) &= T \cdot \frac{1}{3} \frac{d \tilde{u}(T)}{dT} - \frac{1}{3} \tilde{u}(T)
\\
\therefore \ \
\frac{d \tilde{u}}{\tilde{u}} &= \frac{4}{T} dT
\\
\therefore \ \
\log \tilde{u}
&= 4 \log T + C
\ \ \ \ \ \ \ \ \text{ ( $C$ は積分定数 )}
\\
&= \log T^4 + C
\end{aligned}
\]
となるので、 \(\tilde{u}\) は \(T\) の4乗に比例することがわかる。