広島大学 先進理工系科学研究科 数学プログラム 2022年8月実施 専門科目 午前 [1]
Author
Miyake
Description
次の (A), (B) のすべての問に答えよ.
(A)
\(a\) を実定数とし, 実行列 \(A = \begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 \\ 2 & 3 & 1 \\ 0 & 1 & a \end{pmatrix}\) を考える. 以下の問に答えよ.
(1). \(A\) の階数が \(2\) となるような \(a\) の値を求めよ.
(2). \(a\) を (1) で求めた値とする. \(x, y, z\) を未知数, \(p, q, r\) を定数とする. 実線形方程式
\[
A \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} p \\ q \\ r \end{pmatrix}
\]
が解をもつための必要十分条件を \(p, q, r\) を用いて表し, それが成り立つときの一般解を \(r\) を用いない形で求めよ.
(B)
有限次元実線形空間 \(V\) 上の線形写像 \(A : V \rightarrow V\) は \(A^3 = I\)(ただし, \(I\) は \(V\) 上の恒等写像)を満たすとする.
\(B = (I + A + A^2)/3, C = I - B, X = \text{Ker}\ B, Y = \text{Ker}\ C\) とする. 以下の問に答えよ.
ただし, 写像の合成を積とみなし, 線形写像 \(T : V \rightarrow V\) に対してその核を \(\text{Ker}\ T\) と表す.
(1). \(BC = CB = O\) を示せ. ただし, \(O\) は \(V\) 上の零値写像(すべての \(V\) の元を \(V\) の零ベクトルに写す写像)である.
(2). \(V = X \oplus Y\) を示せ. ただし, \(\oplus\) はベクトル空間の直和を表す.
(3). \(W = \{ u + A(v) \in V \mid u, v \in X \}\) は \(X\) の部分空間であり, かつ \(A(W) \subset W\) となることを示せ.
(4). \(V\) の次元が奇数ならば, \(A\) は 1 を固有値にもつことを示せ.
Kai
(A)
(1)
\(A\) は次のように行基本変形できる:
\[
\begin{aligned}
\begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & a \end{pmatrix}
\\
\begin{pmatrix} 1 & 0 & -1 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & a-1 \end{pmatrix}
\end{aligned}
\]
よって、 \(A\) の階数が \(2\) となるのは \(a=1\) のときである。
(2)
与えられた方程式の拡大係数行列
\[
\begin{aligned}
\begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 & p \\ 2 & 3 & 1 & q \\ 0 & 1 & 1 & r \end{pmatrix}
\end{aligned}
\]
は、次のように行基本変形できる:
\[
\begin{aligned}
\begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 & p \\ 0 & 1 & 1 & -2p+q \\ 0 & 1 & 1 & r \end{pmatrix}
\\
\begin{pmatrix} 1 & 0 & -1 & 3p-q \\ 0 & 1 & 1 & -2p+q \\ 0 & 0 & 0 & 2p-q+r \end{pmatrix}
\end{aligned}
\]
よって、与えられた方程式が解をもつための必要十分条件は \(2p-q+r=0\) である。
このとき、
\[
\begin{aligned}
\begin{cases} x-z = 3p-q, \\ y+z= -2p+q \end{cases}
\end{aligned}
\]
となるので、一般解は、 \(t\) を任意の実数として、
\[
\begin{aligned}
\begin{cases} x = 3p-q+t, \\ y = -2p+q-t, \\ z = t \end{cases}
\end{aligned}
\]
と表せる。
(B)
(1)
\[
\begin{aligned}
B^2
&= \frac{1}{9} \left( I + 2A + 3A^2 + 2A^3 + A^4 \right)
\\
&= \frac{1}{9} \left( 3I + 3A + 3A^2 \right)
\ \ \ \ \ \ \ \ ( \because A^3=I )
\\
&= B
\end{aligned}
\]
なので、
\[
\begin{aligned}
BC
&= B(I-B)
\\
&= B - B^2
\\
&= O
, \\
CB
&= (I-B)B
\\
&= B - B^2
\\
&= O
\end{aligned}
\]
がわかる。
(2)
\(V\) の零ベクトルを \(0_V\) とする。
まず、 \(x \in X, x \ne 0_V\) を考えると
\[
\begin{aligned}
Cx
&= x - Bx
\\
&= x
\\
&\ne 0_V
\end{aligned}
\]
なので \(x \notin Y\) であり、
\(y \in Y, y \ne 0_V\) を考えると
\[
\begin{aligned}
By
&= y - Cy
\\
&= y
\\
&\ne 0_V
\end{aligned}
\]
なので \(y \notin X\) である。
よって、
\[
\begin{align}
X \cap Y = \left\{ 0_V \right\}
\tag{*} \label{*}
\end{align}
\]
である。
さらに、任意の \(v \in V\) は
\[
\begin{aligned}
v &= Cv + Bv
\end{aligned}
\]
と表せるが、 \(BC=CB=O\) から \(Cv \in X, Bv \in Y\) である。
このことと (\(\ref{*}\)) から
\[
\begin{aligned}
V = X \oplus Y
\end{aligned}
\]
が言える。
(3)
(i) 任意の \(w \in W\) は適当な \(u,v \in X\) を使って
\[
\begin{aligned}
w = u + Av
\end{aligned}
\]
と表せ、
\[
\begin{aligned}
Bw
&= Bu + BAv
\\
&= Bu + ABv
\\
&= O
\ \ \ \ \ \ \ \ ( \because u, v \in X )
\end{aligned}
\]
なので、 \(w \in X\) であり、 \(W \subset X\) がわかる。
また、任意の実数 \(a,b\) と任意の
\[
\begin{aligned}
w_1 &= u_1 + Av_1 \in W
\ \ \ \ ( u_1, v_1 \in X )
\\
w_2 &= u_2 + Av_2 \in W
\ \ \ \ ( u_2, v_2 \in X )
\end{aligned}
\]
について、
\[
\begin{aligned}
aw_1 + bw_2
&= a(u_1 + Av_1) + b(u_2 + Av_2)
\\
&= (au_1+bu_2) + A (av_1+bv_2)
\end{aligned}
\]
であるが、 \(au_1+bu_2, av_1+bv_2 \in X\) なので、
\[
\begin{aligned}
aw_1 + bw_2 \in W
\end{aligned}
\]
が言え、 \(W\) が実線形空間であることがわかる。
以上より、 \(W\) は \(X\) の(線形)部分空間であることがわかる。
(ii) 任意の \(w \in W\) は適当な \(u,v \in X\) を使って
\[
\begin{aligned}
w = u + Av
\end{aligned}
\]
と表せ、
\[
\begin{aligned}
Aw
&= Au + A^2v
\\
&= A^2v + Au
\\
&\in W
\ \ \ \ \ \ \ \
( \because BA^2v = A^2Bv = O \text{ より } A^2v \in X )
\end{aligned}
\]
なので、 \(A(W) \subset W\) である。
(4)