山口大学 人間社会科学研究科 経済学・経営学専攻 経済社会政策コース 令和8年度第1回 外国人留学生選抜 専門科目(観光論)
Author
祭音Myyura (co-authored with GPT 5.6 SOL)
Description
2019年、2023年、2024年の地方ブロック別外国人延べ宿泊者数を示す図を読み取り、日本のインバウンド観光が抱える問題を特定したうえで、具体的な数値や地域事例を用いて解決策を論じる問題である。
题目描述
题目给出日本各地方板块在2019年、2023年和2024年的外国人延住人数,要求根据图表识别日本入境旅游的问题,并结合具体数据和地区案例提出解决方案。
题目所附数据
図 地方ブロック別延べ宿泊者数(外国人)(単位:万人泊)
| 地方ブロック | 2019年 | 2023年 | 2024年(速報値) |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 881 | 713 | 965 |
| 東北 | 185 | 156 | 229 |
| 関東 | 4,054 | 5,267 | 6,973 |
| 北陸信越 | 340 | 310 | 524 |
| 中部 | 827 | 442 | 841 |
| 近畿 | 3,294 | 3,304 | 4,501 |
| 中国 | 220 | 199 | 283 |
| 四国 | 122 | 92 | 162 |
| 九州 | 868 | 844 | 1,148 |
| 沖縄 | 775 | 448 | 733 |
| 表示値合計(参考) | 11,566 | 11,775 | 16,359 |
出典:国土交通省(2025)『令和7年版 観光白書』19頁、図表I-31(原資料:観光庁「宿泊旅行統計調査」)。2019年・2023年は各年の確定値を図の単位に合わせて四捨五入し、2024年は原図の速報値を転記した。数値は山口大学の試験問題に掲載された図とも照合済みである。なお、長野県は北陸信越、福井県は中部に含まれる。表示値合計は丸め後の各ブロックを加算した参考値であり、2024年は白書が未丸め値から示す全国速報総数16,360万人泊と1万人泊の丸め差が生じる。
Kai
1. 図から読み取れる問題
最大の問題は、外国人宿泊需要が関東と近畿へ極端に集中していることである。2024年の外国人延べ宿泊者数は、関東が6,973万人泊、近畿が4,501万人泊である。図に示された10ブロックの合計は1億6,359万人泊であり、関東と近畿だけで1億1,474万人泊、約70.1%を占める。
これに対して、東北は229万人泊、中国は283万人泊、四国は162万人泊にとどまり、3地域の合計は674万人泊、全体の約4.1%である。関東一地域の宿泊者数はこの3地域合計の約10.3倍である。北海道965万人泊、九州1,148万人泊と比べても、東北、中国、四国の少なさは明らかである。
この偏在は、二つの問題を同時に生む。第一に、東京、京都、大阪などでは、交通混雑、騒音、ごみ、文化財の損傷、宿泊費や地価の上昇、住民生活との摩擦といったオーバーツーリズムが生じる。観光客自身にとっても、待ち時間や混雑により旅行満足度が下がる。第二に、地方部では、宿泊、飲食、交通、体験サービスへの需要が十分に生まれず、観光収入が雇用や地域資源の保全につながりにくい。したがって、単に訪日客総数を増やすだけでは、持続可能な観光成長とはいえない。
2. 解決の基本方針
必要なのは、需要を一律に抑えることではなく、観光客の訪問地域、訪問時期、滞在時間を分散させ、地方での消費と宿泊を増やすことである。その際、初訪日の旅行者へ有名地を一方的に勧めるのではなく、再訪者、個人旅行者、食、自然、歴史、温泉、アクティビティなど明確な関心を持つ層を市場別に選ぶ必要がある。
3. 具体策
地方周遊ルートを商品として販売する
人気地域と伸び悩む地域を交通上連続する一つの商品にする。例えば、東京だけで完結する旅ではなく、東京から新幹線で仙台、山形、青森へ向かう「東北の祭り・温泉・雪文化」ルートを造成する。近畿からは、岡山、広島、山口を経て福岡へ抜ける「瀬戸内・山陰・西日本文化」ルートや、大阪、淡路島、徳島、香川、愛媛を結ぶ食とアートのルートを販売する。特に中国地方は近畿と九州、東北は関東と北海道に隣接するため、既存の人気地域から1泊ずつ延ばす商品を作りやすい。
周遊券、鉄道・バス・フェリーの共通予約、手荷物配送、多言語案内、地方空港からの二次交通を組み合わせ、旅行者が個別に複雑な予約をしなくても移動できる状態を整えることが重要である。
地域資源を「見る場所」から「滞在して買う体験」へ変える
山口県を例にすれば、錦帯橋や秋吉台を短時間見るだけではなく、萩の町並みと工芸、長門湯本温泉、酒蔵、ふぐや地魚、サイクリングを組み合わせ、2泊以上の予約可能な商品にする。東北では農泊、雪上体験、祭りの担い手との交流、四国では遍路、サイクリング、瀬戸内のアートと食を少人数商品として造成する。地域DMOが宿泊業、交通事業者、飲食店、生産者を束ね、英語だけでなく重点市場の言語で予約・決済まで完結させる。
また、旅行者数だけでなく、一人当たり消費額を高めるべきである。地域ガイド、夜間・早朝体験、工房見学、食文化体験などに適正な価格を設定し、収益の一部を文化・自然資源の保全へ還元する。
市場別プロモーションと情報設計を行う
SNSで景色だけを広く発信するのではなく、再訪意向、興味関心、滞在日数、予約履歴に基づいて対象を絞る。例えば、台湾・香港の鉄道旅行層には東北の温泉と紅葉、欧米豪の長期滞在層には四国遍路や瀬戸内サイクリング、韓国の短期旅行層には北部九州から下関・長門へ延ばす2泊商品を提示する。OTA、航空会社、鉄道会社の予約データを用い、広告閲覧から地方宿泊の予約まで測定できるようにする。
混雑地域では需要管理を併用する
分散策だけでは、新たな地域へ混雑を移す危険がある。京都などでは、予約時間制、混雑予報、ピーク時間帯の価格調整、観光バスの乗降管理、宿泊税などを組み合わせる。得られた財源を公共交通、清掃、文化財保全、住民サービスへ充て、観光客と住民の双方が便益を感じる仕組みにする。地方側でも、受入可能人数を超える前に、住民参加のルールと予約上限を定めるべきである。
4. 成果の測定
政策評価では、訪日客総数だけでなく、(1) 関東・近畿以外の外国人延べ宿泊者数と構成比、(2) 地方での平均宿泊数、(3) 一人当たり地域消費額、(4) 閑散期の客室稼働率、(5) 混雑時間と交通負荷、(6) 住民満足度、(7) 観光客満足度を継続して測る。例えば、3年で東北・中国・四国の外国人延べ宿泊者数を2024年比30%増、対象ルートの地方宿泊数を20%増とするなど、基準年と期限を明示した目標が必要である。
以上のように、図が示す問題は単なる地方の宣伝不足ではなく、アクセス、商品、予約、価格、地域の受入体制を含む観光システム全体の偏在である。人気地域から地方へ人を送るだけでなく、地方で長く滞在し、地域事業者へ所得が残り、住民生活とも両立する仕組みを構築することが解決につながる。
出題の意図
図表から関東・近畿への著しい集中を読み取り、オーバーツーリズムと地方への需要分散を結びつけ、数値や地域の立地条件を用いて実行可能な政策を論じられるかを確認する問題である。