東京大学 理学系研究科 物理学専攻 2019年8月実施 物理学 第1問
Author
Miyake
Description
第1問
量子力学的二状態系を考えよう。この場合、観測量は のエルミート行列で表される演算子に対応する。以下では次の行列表示をもつ観測量
を考え、状態ベクトルを
を用いて表す。
1. 状態 において観測量 を測定した。測定結果が取りうる値 、およびその期待値を求めよ。
2. 状態 において観測量 を測定した。測定結果が取りうる値 、およびその期待値を求めよ。
3. 状態 において観測量 を測定した。測定結果が取りうる値 、およびその期待値を求めよ。
上記の二状態系 からなる複合系を考える。その状態は四状態
の線形結合で書ける。そのような複合系を準備したのち、二状態系 をそれぞれ別の場所で測定する。模式図は以下を参照せよ:
模式図:
部分系 を測定 複合系を準備 部分系 を測定
この設定の下で、次の実験を考える。
実験:
状態
の複合系を毎回新たに準備し、部分系 において観測量 のいずれか、部分系 において観測量 のいずれかを測定する。
この実験を、何度も繰り返すことを考えよう。
4. 毎回、部分系 で 、部分系 で を測定する。取りうる測定結果の組 を述べよ。また、積 の期待値を求めよ。
5. 毎回、部分系 で 、部分系 で を測定する。取りうる測定結果の組 を述べよ。また、積 の期待値を求めよ。
6. 毎回、部分系 で 、部分系 で を測定する。この場合、測定結果の組 は を満たすことを示せ。
7. 毎回、部分系 で 、部分系 で を測定する。取りうる測定結果の組 を述べよ。また、積 の期待値を求めよ。
8. 各回、部分系 で測定する観測量 を 、、 からそれぞれ 1/3 の確率で測定者が選択することにし、また、部分系 でも、測定する観測量 を 、、 からそれぞれ 1/3 の確率で測定者が選択することにする。測定結果の組 の取りうる値を述べよ。また、積 の期待値を求め、それが 0 になることを示せ。
これまでは量子力学を用いて考察を行ったが、そのようにして得られた設問 8 の結論は、以下でのべる決定論的仮説と矛盾することを確認しよう。
設問 8 の設定において、量子力学的には、各回の実験では、部分系 について 、、 のどれか一つ、部分系 について 、、 のどれか一つしか測定できない。これに対し、決定論的に、次のように考えてみよう。
仮説:
各回の実験ごとに、実際に対応する観測量を測定しなかったかにかかわらず、部分系 で 、、 を測定したとすると得られるであろう測定結果 、部分系 で 、、 を測定した場合に得られるであろう測定結果 があらかじめ決まっているとする。設問 6 よりそれらは
を満たすとする。
9. 上記の仮説のもと、設問 8 と同様、部分系 で 、、 をそれぞれ 1/3 の確率で測定し、部分系 で 、、 をそれぞれ 1/3 の確率で測定する。このとき、 を測定した際に得られる測定結果を 、 を測定した際に得られる測定結果を と書く。
(i) の場合、 の期待値を求めよ。
(ii) の場合、 の期待値を求めよ。
(iii) 八通り が任意に起こる場合、 の期待値は負であることを示せ。
設問 8 の量子力学による結果では の期待値は 0 であり、上記の決定論的仮説のもとでは の期待値は負となった。これより、量子力学は上記の決定論的仮説とは矛盾することがわかる。
(この問題は、N. David Mermin, Physics Today 38, 4, pp.38-47 (1985) を参考にした。)
Kai
であるから、 は の固有値 に属する固有ベクトルであり、
である。
また、期待値は、 である。
の固有値は であり、
固有値 に属する固有ベクトル ,
固有値 に属する固有ベクトル
はそれぞれ、
である。
よって、
が成り立つから、 である。
また、期待値は、
である。
の固有値は であり、
固有値 に属する固有ベクトル ,
固有値 に属する固有ベクトル
はそれぞれ、
である。
よって、
が成り立つから、 である。
(ただし、 のときは 、 のときは である。)
また、期待値は、 である。
であり、 の期待値は である。
上の 2. で考えたように、
であるから、
となる。
よって、 であり、
の期待値は である。
上の 3. で考えたように、
であるから、
となる。
よって、 である。
となる。
よって、 のときは
、
のときは
、
それ以外のときは
である。
また、 の期待値は、次のように計算できる:
のとりうる値は、
であり、その確率はそれぞれ
である。
例えば、 のとき、
であるから、このとき、 のとりうる値は、 であり、 である確率はそれぞれ、
である。また、 がとりうる値は、
である。
のときも同様である。
のときは、
であるから、
がとりうる値は であり、
のとりうる値は のみである。
以上より、
がとりうる値は、
であり、
の期待値は、
である。
(i)
このとき、
であるから、 は必ず であり、期待値も である。
(ii)
このとき、
であるから、 が
になるのは 通り、
になるのは 通りである。
これらは等確率であるから、 の期待値は、
である。
(iii)
のとき、(i) より、 の期待値は である。
のとき、(ii) より、 の期待値は である。
よって、 の期待値は
である。