東京大学 理学系研究科 天文学専攻 2022年8月実施 天文学
Author
Miyake
Description
問 1.
光子1つ1つを検出できる単光子検出器を用いて, 天体から定常的に放射される光子の検出器への入射イベント(光子イベント)を測定する. 天体からの放射は相互に独立に起こる事象であるため, ある測定時間内に検出される光子イベント数 ( 以上の整数)は確率変数となり,その確率分布は以下のようにポアソン分布に従う.
ここで は の期待値である. なお, である.
以下では, 天体から 秒間に平均で 個の光子イベントが検出される場合を考える.
(a) 秒間に検出される光子イベント数が 個である確率 をもとめよ.
(b) は, ある光子イベントと次の光子イベントの検出時刻の間隔 (待ち時間) が 秒より長くなる確率とも解釈できる. 光子イベントの待ち時間を確率変数 とし, その確率密度関数を とすると,
の関係が成り立つ. このことから,
となることを示せ.
() 光子イベントの待ち時間 の期待値をもとめよ.
問 2.
光子イベントの待ち時間に見られる性質は, 相互に独立に発生する天体現象である超新星イベント (星の爆発現象) においても期待される. 以下では, ある観測時間内に発生する超新星イベントの数は確率変数であり, その確率分布はポアソン分布に従うものとする. 私達の銀河系の中およびその近傍 (近傍宇宙) では, 西暦 1987 年に出現した SN1987A が最後に観測された超新星イベントである.
地球から観測できる近傍宇宙における超新星イベントの頻度が50年に1回であるとし, SN1987Aの次の超新星イベントが西暦 年に発生するとする。西暦 1987 年から 年の間に超新星イベントが発生する確率が となる 年を整数で答えよ. 計算において自然対数 の近似値を使っても良い.
問 3.
光電効果により生成される電子を蓄積する検出器を用いて, 天体から定常的に放射される光子を観測することを考える. 秒間の露光で検出器内に蓄積される電子の数を とする.
は確率変数であり, その確率分布はポアソン分布に従う. 式 (1) のポアソン分布は期待値 が十分に大きい場合に, 正規分布 で近似できることが知られている. 以下では, は,その期待値が十分に大きいため, 正規分布に従うものとする. また, 秒間の露光終了後, 蓄積された電子の総数の測定値 を得る際に, 測定誤差 が生じるとする . も確率変数であり, の正規分布に従うものとする. は の分散である. なお, 正規分布は以下の特徴を持つことが知られている.
(定義) 正規分布に従う確率変数 の確率密度関数は,
と表される. ここで は の期待値, は の分散である.
(正規分布の再生性) をそれぞれ正規分布 に従う独立な確率変数とすると, の確率分布は に従う.
(標準正規分布の線形変換) 確率変数 の確率分布が標準正規分布 に従う場合,確率変数 の確率分布は に従う. と は実数である.
(中心極限定理) 期待値 ,分散 を持つ任意の確率分布に従う 個の値を とした場合,
の確率分布は, が十分に大きい時に標準正規分布 に従う.
天体から1秒間に平均で 個の光子が検出器に入射している場合を考える. ただし, 検出器に入射した各光子は つの電子に変換される (量子効率 ) とする.
(a) が従う確率密度関数 を, の関数としてもとめよ.
(b) 測定値の信頼度を示す指標として, 信号ノイズ比 ( 比) を定義する. これは, 測定値が, 測定値の標準偏差の何倍かで定義される値である. の時, ( 比) の期待値が となる露光時間をもとめよ.
問 4.
計算機上で疑似観測データを生成する方法を考える. 区間 上に一様分布するように生成した 個の乱数 を (≫ 1)セット準備する. これらと中心極限定理を用いて, 問 3(a) の の確率分布に従う 個の数値データ を生成する方法を説明せよ. なお, 区間 の一様分布の期待値は , 分散は であることが知られている.
Kai
問 1.
(a)
秒間に検出される光子イベント数の平均は であるから、
式 (1) より、
がわかる。
(b)
式 (2) の両辺を で微分すると、
となるので、
を得る。
((c))
問 2.
問 1. (b) の確率変数 の確率密度関数 について、
の確率が となるような を求める:
これに [回/年] を代入すると、
年
を得る。 であるから、求める は であろう。
問 3.
(a)
は期待値 分散 の正規分布に従うとしてよい。
と が独立であるとすると、
与えられた性質 (正規分布の再生性) より、
は期待値 分散 に従うことがわかるので、
(b)
の期待値と標準偏差はそれぞれ
であり、
となる を求めると を得る。これが求める露光時間であろう。
問 4.
番目のセットの
番目の乱数 とする。(5)式を考慮して、
とおくと、与えられた性質 (中心極限定理) より、これは標準正規分布に従う。
よって、さらに
とおくと、与えられた性質 (標準正規分布の線形変換) により、
これの期待値は で分散は であることがわかる。
このようにして を生成すればよい。