東京大学 工学系研究科 2025年8月実施 化学 第3問
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GPT-5.6 Sol
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有機化学に関する次の I から III に答えよ。
I
次の反応における主生成物 A から K の構造式を示せ。
II
以下の化合物 L を出発物質とする多段階反応では,化合物 N,O がそれぞれ主生成物,副生成物として得られる。ここで,Ts,py はそれぞれ p-トルエンスルホニル基,ピリジンを表す。以下の問いに答えよ。
- N の構造を示し、N が優先する理由を反応機構から説明せよ。
- L から O を主生成物として得る多段階反応経路を一つ示せ。
III
- 以下の化合物 P の反応で得られた化合物 Q を単離精製した。化合物 Q の スペクトルを 中で測定したところ, ppm および ppm に,同一のカップリング定数を有する 2 つのダブレットシグナルが観測された。化合物 Q の構造式を描け。
- ベンゼンを出発物質として化合物 R を主生成物として合成するための多段階反応経路を 1 つ示せ。
- ヒト肝臓におけるヒドロキシラーゼを触媒とするフェニルアラニンの水酸化反応の反応経路は,以下のように提案されている。この反応において,重水素標識化されたフェニルアラニン S から,対応する重水素化チロシン U が得られる。中間体 T からチロシン U が生成する反応機構を,巻き矢印で電子の流れを示しながら描け。
Kai
I
I.1 A
PCC は第一級アルコールをアルデヒドまで酸化し、ピリドン環、環上のメチル基、および N-ベンジル基は変化しない。したがって A は出発物質の を に置き換えた構造である。
O=C1C(C)=C(C=O)C=CN1Cc2ccccc2I.2 B、C
オゾン分解では C=C の両炭素がそれぞれカルボニル炭素になる。環側からシクロヘキサノン B、二つのメチル基をもつ環外炭素からアセトン C が生じる。
B(シクロヘキサノン):
O=C1CCCCC1C(アセトン):
CC(=O)CI.3 D
まず 2-メチルシクロヘキサン-1,3-ジオンの活性メチレンから生じたエノラートが、エチルビニルケトンの 炭素へ Michael 付加する。続く分子内アルドール付加と脱水により、Robinson 環化生成物 D を得る。
CC12C(=O)CCCC1=C(C)C(=O)CC2分子式の収支も
となり、D の分子式 と一致する。
I.4 E、F
1-テトラロンとピロリジンの脱水縮合でエナミン E が生じる。
N1(CCCC1)C2=CCCc3ccccc32E の求核的なエナミン炭素が に 攻撃し、酸加水分解でカルボニル基が再生する。これは Stork エナミンアルキル化であり、F は 2-メチル-1-テトラロンである。
O=C1C(C)CCc2ccccc21I.5 G
2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンとアクロレインの Diels-Alder 反応により、G(3,4-ジメチルシクロヘキサ-3-エン-1-カルバルデヒド)が生じる。
O=CC1CC(C)=C(C)CC1I.6 H
によるアルキンの溶解金属還元では、二つの H が反対側から付加する。したがって H は -4-オクテンである。
CCC/C=C/CCCI.7 I
は 2-ヘキセナールのカルボニル炭素へ 1,2-付加し、酸処理後に二級アリルアルコール I を与える。元の C=C は保持される。
CCC/C=C/C(O)CCI.8 J
から供給される がニトリル炭素へ二回付加し、後処理の水から N-H の H が導入される。したがって J は である。
[2H]C([2H])(N)c1ccccc1I.9 K
Lewis 酸存在下の加熱で amino-Claisen 転位が起こり、アリル基が N から空いているオルト位へ移る。K は 2-アリル-4-ブロモアニリンである。
Nc1c(CC=C)cc(Br)cc1II
II.1
N は 1-メチルシクロヘキサ-1-エンである。
CC1=CCCCC1シクロヘキサン上の E2 反応では、脱離基と -H が trans-diaxial、すなわち反平面になる必要がある。M の反応配座では OTs が軸位になり、隣接するメチル置換炭素上にも OTs と反平面の軸位 H が存在する。この H を引き抜けば、置換度の高い C1=C2 二重結合をもつ N が生じる。
反対側の -H を引き抜くと副生成物 O(3-メチルシクロヘキサ-1-エン)になる。
C1=CC(C)CCC1両経路とも trans-diaxial 条件を満たすが、N の二重結合の方が置換度が高く安定なので、
となる。
II.2
L の OH の立体配置だけを反転させて trans-2-メチルシクロヘキサン-1-オールとし、その後に脱離させればよい。一例は Mitsunobu 反応を用いる経路である。
trans-1,2-置換体を E2 反応可能な配座にすると OTs とメチル基がともに軸位となる。メチル置換炭素には反平面の軸位 H が存在しないため、反対側の炭素上の H だけが脱離し、C1=C6 二重結合をもつ O が選択的に生じる。
III
III.1
Q は 4-ニトロビフェニルである。
[O-][N+](=O)c1ccc(-c2ccccc2)cc1ビフェニル基はオルト・パラ配向性を示し、立体障害の小さいパラ置換体が主となる。ニトロ基をもつ環はパラ二置換環なので、その 4 個の H は二組の等価な H に分かれ、同じオルトカップリング定数をもつ二つのダブレットを与える。 側はニトロ基に近い H に対応する。
III.2
プロピルハライドを直接 Friedel-Crafts アルキル化すると、一次プロピルカチオンが二次カチオンへ転位してイソプロピルベンゼンを生じやすい。そこで、まず転位しないアシリウムイオンでアシル化し、そのカルボニル基を還元する。
第 2 段階は Wolff-Kishner 還元である。生成物 R は n-プロピルベンゼンである。
CCCc1ccccc1代わりに による Clemmensen 還元を用いてもよい。
III.3
出発物質 S では、D は側鎖に対してパラ位にある。
N[C@@H](Cc1ccc([2H])cc1)C(=O)O酸化により、D をもつ炭素とその隣の炭素の間にアレーンオキシド T が生じる。
C1=CC(C[C@@H](N)C(=O)O)=CC2C1([2H])O2T のエポキシドを構成する二つの炭素について、もともと D をもつ炭素を C1、その隣を C2 とする。
- エポキシド O の孤立電子対が を受け取り、プロトン化エポキシドになる。
- C2-O 結合の電子対が O へ移動して開環し、O は C1 上に OH として残り、C2 にカチオン性をもつ 錯体が生じる。
- C1-D 結合の電子対が C2 のカチオン中心へ移動し、D が C1 から C2 へ 1,2-転位する。
- 芳香環内の電子移動と脱プロトン化によって芳香族性が回復する。
この結果、酸素は元の D の位置でフェノール性 OH となり、D は隣接炭素へ移った重水素化チロシン U が生じる。
N[C@@H](Cc1ccc(O)c([2H])c1)C(=O)Oこの同位体保持を伴う転位が NIH shift である。