東京大学 工学系研究科 2025年8月実施 化学 第2問
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GPT-5.6 Sol
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無機化学に関する次の I、II に答えよ。必要に応じ、モル質量
M/(gmol−1)H1.0N14.0O16.0Cl35.5Co58.9Ag107.9
を用いよ。
- 次の段階的錯形成反応の平衡定数を K1,K2,K3 とする。最も小さいものを選び、「d 電子」「平面四角形構造」を用いて理由を説明せよ。
CuX2++en[Cu(en)]X2+,[Cu(en)]X2++en[Cu(en)X2]X2+,[Cu(en)X2]X2++en[Cu(en)X3]X2+.
- Ni(CO)X4、[Co(CO)X4]X−、[Fe(CO)X4]X2− のうち、CO 伸縮振動が最も高波数に現れるものを選び、「負電荷」「dπ 軌道」「π∗ 軌道」を用いて説明せよ。
- 単核 Co 錯体 A について次の結果を得た。
-
水 10.0 g に A 0.100 g を溶かすと凝固点は −0.158∘C となった。水のモル凝固点降下度は 1.86 Kkgmol−1 である。
-
A 1.00 mmol を十分な AgNO3 水溶液に加えると直ちに 1.00 mmol の AgCl が生じ、加熱するとさらに 2.00 mmol 生じた。
-
A 1.00 mmol を十分な NaOH 水溶液中で加熱すると 2.00 mmol の NHX3 と黒色沈殿が生じた。
A の分子量を計算し、配位構造式を図 2.1 にならって描け。
イオン半径
r/A˚Na+1.0Cs+1.7Zr4+0.84Br−2.0O2−1.4
および M(O)=16.0、M(Ca)=40.0、M(Zr)=91.0 gmol−1 を用いてよい。
-
ρ=rc/ra とする。NaCl 型構造を安定に保つ最小半径比 ρlim を求めよ。2=1.4 としてよい。
-
CsCl 型構造の ρlim は 0.73 である。NaBr、CsBr の配位数を求めよ。
-
高温の ZrOX2 は立方晶蛍石構造をとる。少量の CaO を加えた ZrOX2−CaO では、この構造がより低温まで安定化される。
- CaO 添加で格子定数が増加することを踏まえ、イオン半径の観点から安定化を説明せよ。
- 形成機構として次の二つを考える。
機構 1:機構 2:(Zr1−xCa2x)O2(Zr1−xCax)O2−x(Ca2+ が格子間に入り、O2− 数は一定),(陽イオン数は一定で、O2− 空孔が生じる).
立方晶 ZrOX2の密度は6.1\ \mathrm{g,cm^{-3}}、10mol\ce{CaO}を含む固溶体の密度は5.7\ \mathrm{g,cm^{-3}}$ である。格子定数は組成で変わらないと仮定し、妥当な機構を選べ。
Kai
I.1
Cu の原子番号は 29 であり、Cu2+ は 3d9、すなわち d 電子を 9 個もつ。二つの二座配位子 en が四つの N 原子で配位すると、[Cu(en)2]2+ は安定な平面四角形構造をとる。
d9 の Cu(II) では Jahn-Teller 効果によって軸方向の結合が弱くなりやすい。三つ目の en を加えるには、この安定な四配位構造に軸方向の二つの結合を形成して六配位化しなければならず、立体的にも電子的にも不利である。したがって、
K3 が最も小さい
と判断できる。
I.2
三つの錯体はいずれも 18 電子型で、金属中心は形式上 d10 である。一方、錯体全体の負電荷は
Ni(CO)X4<[Co(CO)X4]X−<[Fe(CO)X4]X2−
の順に増える。
負電荷が大きいほど金属の dπ 軌道から CO の反結合性 π∗ 軌道への逆供与が強くなる。その結果 C-O 結合次数が下がり、伸縮波数も低下する。逆供与が最も弱いものは中性錯体なので、
Ni(CO)X4
が最も高波数に現れる。
I.3
直ちに生じる AgCl が 1.00 mmol であるから、A 1 式量あたり外圏の Cl− は 1 個である。したがって水中では主に錯陽イオンと Cl− の 2 粒子に解離し、van't Hoff 係数を i=2 とする。
A のモル質量を M とすると、
0.158=iKf0.01000.100/M.
よって、
M=(0.158)(0.0100)2(1.86)(0.100)=2.35×102 gmol−1.
加熱後にさらに 2 個分の AgCl が生じるため、内圏配位子として Cl− が 2 個ある。NaOH 加熱で NH3 が 2 個分生じるので、アンミン配位子も 2 個である。既知部分のモル質量は
58.9+3(35.5)+2(17.0)=199.4 gmol−1.
実測値との差は
235.4−199.4=36.0=2(18.0)
であるから、残る配位子は H2O 2 個である。したがって、
A=[Co(NHX3)X2ClX2(HX2O)X2]Cl
である。錯陽イオンは +1 なので Co は +3 価である。六つの配位結合を矢印で表した構造式は次のとおりである。
ピリオドの左側が外圏の ClX−、右側が八面体型の錯陽イオンである。
与えられた実験だけでは、二つずつの同種配位子の cis/trans 配置までは一意に決まらない。
式量の確認は
58.9+2(17.0)+2(35.5)+2(18.0)+35.5=235.4
であり、凝固点降下からの値と一致する。
II.1
NaCl 型では陰イオンが面心立方格子をつくり、陽イオンは八面体孔を占める。限界状態で格子定数を a とすると、面対角線上で陰イオン同士が接するため、
2a=2ra.
一方、立方体の辺上で隣接する陽イオンと陰イオンについて、
2a=rc+ra.
両式から
rc+ra=2ra,
したがって、
ρlim=rarc=2−1≃0.41
である。2=1.4 とすれば 0.40 となる。
II.2
NaBr では
ρNaBr=2.01.0=0.50.
これは NaCl 型の下限 0.41 以上、CsCl 型の下限 0.73 未満なので、
NaBr: 6 配位
である。
CsBr では
ρCsBr=2.01.7=0.85>0.73
なので、
CsBr: 8 配位
である。
II.3.1
CaO 添加で格子定数が増すことから、置換位置にある Ca2+ の有効イオン半径は Zr4+ より大きい。したがって陽イオンと O2− の半径比が増し、高配位数をもつ蛍石型の幾何学的安定領域に近づく。このため、Zr の配位数を下げる低温相への転移が抑えられ、立方晶蛍石構造が低温まで安定化される。
II.3.2
純粋な ZrO2 の式量は
M0=91+2(16)=123.
10 mol% CaO に対し、機構 1 では Ca の割合が
(1−x)+2x2x=1+x2x=0.10
なので、
x=191.
酸素 2 個あたりの質量は
M1=(1−191)91+19240+2(16)=122.42.
体積一定なら、
ρ1=6.1123122.42=6.07 gcm−3.
機構 2 では x=0.10 であり、
M2=0.90(91)+0.10(40)+1.90(16)=116.3.
したがって、
ρ2=6.1123116.3=5.77 gcm−3.
実測値 5.7 gcm−3 に近いのは後者であるから、
機構 2:酸素空孔の生成
が妥当である。
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