名古屋大学 多元数理科学研究科 2021年2月実施 1日目 [1]
Author
江澤 樹
Description
を実数とする. 次正方行列
について,以下の問に答えよ.
(1) の固有値で, という形の固有ベクトル (ただし, は実数とする) をもつものをすべて求めよ.
(2) の固有値をすべて求めよ.
(3) の場合に,固有値 に対する固有空間の次元を求めよ.
(4) が対角化不可能であるために がみたすべき必要十分条件を求めよ.
Kai
(1) は固有値, 固有ベクトルの定義に従って成分計算をした. (2),(3) は Mathematica によって の固有多項式も計算し, 検証した. (4) は多少は厄介に思えた. 行列が対角化可能であるための必要十分条件が各固有値についてその重複度と固有空間の次元が等しいということに注意している. また, 解いているときに常に (1), (2), (3) の結果が利用できないかを意識した. 方針として
は (2) で は固有値 をもつことが示されているため, この固有値 の重複度に注目している. このとき (3) における という仮定にも注意している.
(1)
問題の固有値を とする. また, 固有値 に対する固有空間を とおく. 固有値と固有ベクトルの定義より
で, これは簡単に
と計算できる. これをみたす として
が存在する. つまり, 求める固有値は であり,
である. なお, この2つの固有ベクトルは の値に依存せずに線形独立である. とくに の場合は の固有値 の重複度は 以上であり, であることがわかる. このことは (4) において用いる.
(2)
(1) より は を固有値にもつ. 残り1つを とおく.
であり, 一般に, 跡 (trace) は固有値の和に等しい.
つまり, でもある. よって, である. よって, の固有値は
と求まる.
(3)
の場合,
であり, 行基本変形により
とできる. よって固有空間の定義と次元定理より
と求まる.
(4)
結論: が対角化不可能であるために がみたすべき必要十分条件は「 または 」である.
理由: 一般に, 正方行列が対角化可能であるための必要十分条件は「各固有値の (固有多項式の根としての) 重複度と固有空間の次元が一致している」ことである.
(2) より の固有値は である. これらの重複とそのときの固有空間の次元を
- (i) の場合,
- (ii) かつ の場合,
- (iii) かつ の場合
3つの場合にわけて調べる.
まず, (i) の場合ついて考える.
このとき固有値 の重複度は 以上であり, (3) より によらずに である.
よって が対角化不可能であるためには固有値 の重複度が となることが必要十分であるから である. つまり のとき は対角化不可能であることがわかる.
次に, (ii) かつ の場合について考える.
このとき固有値 の重複度は である.
(1) の結果より であるため は対角化可能である.
最後に, かつ の場合について考える.
が対角不可能であるためには重複度が 以上の固有値の存在が必要であるから, としてよい.
このとき
である. 簡単な小行列式の計算により, のもとでの の階数は
であることが確認できるから, 固有空間の定義と次元定理より
となり のとき A は対角化不可能である.
以上 (i), (ii), (iii) より求める条件は 「 または 」である.