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京都大学 情報学研究科 システム科学専攻 2026年8月実施 信号処理

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AnonTokyo #83056

Description​

以下の問題において jj は虚数単位 (imaginary unit),ee はネイピア数(自然対数の底)(Napier's constant, base of natural logarithm),π\pi は円周率を表す。

問題 1​

わずかに異なる 2 つの角周波数 ω1,ω2\omega_1,\omega_2(ただし ω1>ω2>0\omega_1>\omega_2>0)を持つ余弦波の合成 (superposition of cosine waves) によって生じる,次の「うなり信号 (beat signal)」x(t)x(t) を考える。

x(t)=cos⁡(ω1t)+cos⁡(ω2t)x(t)=\cos(\omega_1t)+\cos(\omega_2t)

ここで,平均角周波数 ωc\omega_c,及びうなり角周波数 Δω\Delta\omega を以下のように定義する。

ωc=ω1+ω22,Δω=ω1−ω22\omega_c=\frac{\omega_1+\omega_2}{2},\qquad \Delta\omega=\frac{\omega_1-\omega_2}{2}

以下の設問に答えよ。

(1) 三角関数の和積公式 (trigonometric sum-to-product formulas) を用いて,うなりの包絡線(エンベロープ,envelope)が満たす式を求めよ。

(2) 実信号 x(t)=cos⁡(ω1t)+cos⁡(ω2t)x(t)=\cos(\omega_1t)+\cos(\omega_2t) のフーリエ変換 X(ω)X(\omega) を求めよ。必要であれば,Dirac のデルタ関数に関する関係式 ∫−∞∞e−jωt dt=2πδ(ω)\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-j\omega t}\,dt=2\pi\delta(\omega) を用いてよい。

(3) 設問 (2) の X(ω)X(\omega) に対して,負の角周波数成分を零とし,正の角周波数成分の振幅を 2 倍にした新しいスペクトル Z(ω)Z(\omega) を以下のように定義する。

Z(ω)={2X(ω)(ω>0),X(ω)(ω=0),0(ω<0)Z(\omega)=\begin{cases} 2X(\omega)&(\omega>0),\\ X(\omega)&(\omega=0),\\ 0&(\omega<0) \end{cases}

この Z(ω)Z(\omega) を逆フーリエ変換 (inverse Fourier transform) して得られる時間領域の複素信号 (complex signal) z(t)z(t) を求めよ。

(4) 設問 (3) の z(t)z(t) が複素数平面上で時間変化する様子 (time course) を説明せよ(z(t)z(t) を ωc\omega_c と Δω\Delta\omega を用いて表し考察せよ)。さらに,∣z(t)∣|z(t)| が設問 (1) で求めたうなり信号の包絡線成分を与えることを示せ。

問題 2​

デジタル信号処理に関する以下の設問に答えよ。ただし,nn は整数であり,また,本問題の zz 変換 (zz-transform) は片側 zz 変換とする。

(1) 信号 x(n)=n2nx(n)=n2^n(n≥0n\ge0)の zz 変換 X(z)X(z) を閉形式で求めよ。この際,絶対収束 (absolute convergence) する zz の領域も示すこと。zz 変換が定義できない場合は「存在しない」と答えよ。また,信号 x(n)=(2n)nx(n)=(2^n)^n(n≥0n\ge0)に対しても同様の問題を考え,その答えを与えよ。

(2) つぎのデジタルフィルタ (digital filter) を考える。

y(n)=x(n)+ax(n−1)+by(n−1)y(n)=x(n)+ax(n-1)+by(n-1)

ただし,x(n)x(n) と y(n)y(n) はそれぞれ実数値の入力信号,出力信号であり,任意の n<0n<0 において x(n)=0x(n)=0 かつ y(n)=0y(n)=0 を満たすと仮定する。また,a,ba,b はある実数である。このフィルタにおいて a=1a=1 かつ b=0b=0 としたとき,どのような周波数選択特性 (frequency selective property) を持つか答えよ。

(3) 設問 (2) のデジタルフィルタにおいて a=0.5a=0.5 とする。このフィルタが以下の条件を同時に満たすような実数 bb が存在するか否かを答えよ。存在する場合はその bb をすべて求めよ。

  • FIR フィルタ (FIR filter) でない。
  • 安定である (stable)。

Kai​

問題 1​

(1) うなりの包絡線​

三角関数の和積公式 cos⁡A+cos⁡B=2cos⁡((A+B)/2)cos⁡((A−B)/2)\cos A+\cos B=2\cos((A+B)/2)\cos((A-B)/2) より,

x(t)=2cos⁡(ωct)cos⁡(Δω t).x(t)=2\cos(\omega_ct)\cos(\Delta\omega\,t).

この信号の非負の包絡線振幅は

A(t)=2∣cos⁡(Δω t)∣\boxed{A(t)=2|\cos(\Delta\omega\,t)|}

である。したがって上下の包絡線は ±A(t)\pm A(t) で表せる。

(2) フーリエ変換​

cos⁡(ω0t)=(ejω0t+e−jω0t)/2\cos(\omega_0t)=(e^{j\omega_0t}+e^{-j\omega_0t})/2 なので,

F[cos⁡(ω0t)]=π[δ(ω−ω0)+δ(ω+ω0)].\mathcal{F}[\cos(\omega_0t)]=\pi\bigl[\delta(\omega-\omega_0)+\delta(\omega+\omega_0)\bigr].

線形性により

X(ω)=π[δ(ω−ω1)+δ(ω+ω1)+δ(ω−ω2)+δ(ω+ω2)].\boxed{X(\omega)=\pi\bigl[\delta(\omega-\omega_1)+\delta(\omega+\omega_1)+\delta(\omega-\omega_2)+\delta(\omega+\omega_2)\bigr]}.

(3) 複素信号​

正の周波数成分を 2 倍し負の周波数成分を除くと

Z(ω)=2π[δ(ω−ω1)+δ(ω−ω2)].Z(\omega)=2\pi[\delta(\omega-\omega_1)+\delta(\omega-\omega_2)].

これを逆フーリエ変換すると

z(t)=ejω1t+ejω2t=2cos⁡(Δω t)ejωct.\boxed{z(t)=e^{j\omega_1t}+e^{j\omega_2t} =2\cos(\Delta\omega\,t)e^{j\omega_ct}}.

(4) 複素平面上の時間変化​

ejωcte^{j\omega_ct} は角速度 ωc\omega_c の回転を,2cos⁡(Δω t)2\cos(\Delta\omega\,t) はゆっくり変化する符号付きの半径方向の伸縮を表す。半径因子が負のときは,正の半径と位相 π\pi の追加として解釈できる。半径因子が 0 になると軌跡は原点を通過する。

また ∣ejωct∣=1|e^{j\omega_ct}|=1 より

∣z(t)∣=2∣cos⁡(Δω t)∣=A(t).\boxed{|z(t)|=2|\cos(\Delta\omega\,t)|=A(t)}.

従って ∣z(t)∣|z(t)| は (1) の包絡線成分に一致する。

問題 2​

(1) 片側 zz 変換​

x(n)=n2nx(n)=n2^n に対して q=2z−1q=2z^{-1} とおくと,

X(z)=∑n=0∞nqn=q(1−q)2(∣q∣<1).X(z)=\sum_{n=0}^\infty nq^n=\frac{q}{(1-q)^2}\quad (|q|<1).

従って

X(z)=2z(z−2)2,絶対収束領域: ∣z∣>2.\boxed{X(z)=\frac{2z}{(z-2)^2},\qquad\text{絶対収束領域: }|z|>2}.

次に x(n)=(2n)n=2n2x(n)=(2^n)^n=2^{n^2} については,任意の有限な z≠0z\ne0 に対し

∣x(n)z−n∣=2n2∣z∣−n⟶∞.|x(n)z^{-n}|=2^{n^2}|z|^{-n}\longrightarrow\infty.

項が零に収束しないので,非空の収束領域は存在せず,通常の zz 変換は 存在しない。

(2) 周波数選択特性​

a=1,b=0a=1,b=0 のとき y(n)=x(n)+x(n−1)y(n)=x(n)+x(n-1) であるから,

H(z)=1+z−1.H(z)=1+z^{-1}.

周波数応答は

H(ejω)=1+e−jω=2e−jω/2cos⁡(ω/2),H(e^{j\omega})=1+e^{-j\omega}=2e^{-j\omega/2}\cos(\omega/2),

従って

∣H(ejω)∣=2∣cos⁡(ω/2)∣.\boxed{|H(e^{j\omega})|=2|\cos(\omega/2)|}.

ω=0\omega=0 の低周波成分はゲイン 2 で通過し,ω=π\omega=\pi では零になる。したがって,これは 2 タップの FIR 低域通過フィルタ である。

(3) FIR でなく安定となる bb​

片側 zz 変換から

H(z)=1+az−11−bz−1=1+0.5z−11−bz−1.H(z)=\frac{1+az^{-1}}{1-bz^{-1}}=\frac{1+0.5z^{-1}}{1-bz^{-1}}.

極零相殺がなければ,b≠0b\ne0 のときインパルス応答は無限長となる。一方,b=0b=0 のときは明らかに FIR である。また b=−0.5b=-0.5 のときは分子と分母が相殺して H(z)=1H(z)=1 となり,やはり FIR である。

残る因果系の BIBO 安定条件は極 z=bz=b に対して ∣b∣<1|b|<1 である。従って求める実数の全体は

−1<b<1,b≠0,b≠−0.5\boxed{-1<b<1,\qquad b\ne0,\quad b\ne-0.5}

である。